中国の習近平国家主席は、その最初の外遊先の一つにタンザニアを選びました。その理由の一つには、タンザニアの人が良く言うように、タンザニアと中国は非同盟運動をともに推進していたニエレレ大統領と毛沢東主席の時代から続く友好国だ、という歴史的背景があるでしょう。中国は、文革の最中のまだ貧しいさなかの1970年に、タンザニアの要請に応ええ、白人支配の続く南アやローデシアに対するザンビアの依存を絶つべく、タザラ鉄道(日本ではタンザン鉄道として知られている)の建設に着手し、1975年に完成させました。しかし、歴史的な友好関係だけでなく、最近の中国のタンザニアへの経済進出は目覚ましいものがあり、現在のタンザニアも中国にとって大変重要な国なのだと思います。ここでは、その概要をご紹介いたします。
タンザニアの対中輸出の内訳をみると、2010年には、総額9084億シリングのうち鉱石が8128億シリング(約406億円)と全輸出の89.5%を占めています。そのなかでも、貴金属鉱(銀を除く)が4913億シリング(全輸出の54%、約245億円)、マンガン鉱が3204億シリング(同35%、約160億円)と群を抜いています。貴金属鉱は、日本の場合にも2011年には全輸入の約53%の108億円を占めており 、含まれる金属の中では、金が含有率は低いものの、価値が最もあります。
タンザニア中央銀行の統計でタンザニアと中国との間の貿易額の推移をみると、今世紀初めは大変少なかったものが1、その後、中国からの輸入がまず伸び、追いかけるように中国への輸出が急増しているのがわかります。2011年の暫定値では、タンザニアの対中輸出は1兆411億シリング(6.9億ドル、520億円ほど)で、対中輸入は1兆2440億シリング(8.29億ドル、620億円ほど)になっています2。
大使館で中国からの乾電池輸入を調べていた中で、タンザニアの輸入統計に計上されている輸入量の何と300倍近い量の乾電池がタンザニア内で流通しているという事実に遭遇しました。この相違は異常過ぎて、大々的な密輸が想定されるのですが、タンザニアの対中輸入総額の数字の不突合にも何らかの違法行為が反映している可能性はあります。
統計の信頼性の問題はありますが、タンザニア側の公式統計でも全体の趨勢はわかります。それによれば、中国はタンザニアにとって第一の輸入先(続いてインド、南ア、UAEそして日本)であり、第3の輸出先(南ア、スイスに次ぐ。日本は4位。)です。旧宗主国の英国や米国、他のEUの国が上位に入っていないのが不思議ですが、米国やEUの特恵関税はタンザニアにほとんど裨益していないということでしょうか。スイスがタンザニアから輸入しているものは殆どが金なので、スイスの地位はかなり特殊です。ともかく、日本も貿易ではタンザニアに大変貢献しているのですが、中国は南アと一、二を争うタンザニアの貿易相手になっています。
同じくタンザニア中央銀行の統計によれば、2011年のタンザニアの対日輸出は5477億シリング(約274億円、日本の通関統計では約204億円)、対日輸入は7944億シリング(約397億円。日本の通関統計は227億円)なので、タンザニアの中国との貿易額は、日本との貿易のざっと6割増しということになりますが、日本との貿易が今世紀の初めから3~4倍増であるのに対し、中国との貿易は輸入で16倍、輸出では何と1500倍も伸びています。
貿易相手国双方の数字は、CIFがFOBの違い、あるいは輸出と輸入の時期的ずれなどの理由から、ある程度異なっても不思議ではないのですが、日本との関係では、輸出も輸入もタンザニア側の数字のほうが多くなっています。
他方、中国側から入手した中国タンザニア間の2011年の貿易額は、総額が対前年比30%増の21.5億ドルで、中国のタンザニアからの輸入が対前年比20%増の4.88億ドル(上記のタンザニア側の数字を繰り返すと6.9億ドル)、タンザニアへの輸出が対前年比33%増の16.6億ドル(同8.29億ドル)となっています。いずれも輸出より輸入のほうが少なく、とくに中国からタンザニアへの輸出(タンザニアからすれば輸入)額には大幅な齟齬があり、中国から輸出したものの半分が途中で消えてしまった、という勘定になっているのが目につきます。
同社は2000年にモロゴロ州のキロサでサイザルの生産を開始しましたが、現在は1400ヘクタールのサイザル農場を経営し、年2千トン生産するサイザル麻は全量中国に輸出し、年間売上高は150万ドルになるとのことです。
中国企業は中国人労働者を連れて来て働かせ、タンザニア人を雇用しない、という評判があるのですが、ここでは中国人従業員が僅か9人に対し1000人を超えるタンザニア人を雇用しています。また、従業員や家族の福利厚生ために、病院や水道を設け、地域から歓迎されているということです。このサイザル農場は、今後毎年300ヘクタールずつ栽培面積を拡大していき、2020年には3000ヘクタールで1万トンの生産を行う予定ということです。
各国の対タンザニア直接投資を見ると、2008年末の数字では、中国は10傑にも入っていません。ちなみ に、その時までの直積投資累積額のトップは南アの13.3億ドル、続いてカナダ9.6億ドル、英国6.2億ドルとなっています。
それから3年たった2011年末の時点でとると、中国の累積投資額は8.68億ドルとなっており(出典:タンザニア投資センター )、中国は投資でもトップクラスに入るようになってきました。中国側の説明では300を超える中国企業が投資を行っており、その約7割が製造業であり、雇用創出は6万人を超えるということです。いくつかの具体例を見てみましょう。
日本の援助は、援助の 項に詳しく紹介してありますが、資金的な協力については、従来から道路、送配電網、給水などの経済社会インフラに重点を置いており、競技場や会議場、軍の研修施設などといった施設は日本が造ることはないものだと思います。
こういった大規模なプロジェクトに加えて、日本の草の根無償のような小規模なプロジェクトを、要所々々に張り付けているようですが、一件ごとの金額は日本の一千万円という目途とは異なり、小学校一つくらいを建設できる金額のようです。中国は、2000年以降、3年ごとに開かれる中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の枠組みの下において、対アフリカ支援に力を入れてきており、2012年7月には5回目の会合が北京で開かれました。対タンザニア援助は、次の3つの重点分野に沿って援助がおこなわれています。
中国は、タンザニア本土とザンジバルにそれぞれ22チームと24チーム、累計2000人を超える草の根医師を派遣してきています。日本のJOCVの累計が1400名を超えたところですから、この2000という数字は大変大きなものです。
これに対し、医療は日本の対タンザニア援助の重点分野ではなく、医師は日本からタンザニアに派遣されていません。他方、技術協力の一環として、ムベヤ州のムベヤ病院を中心に病院の5S活動を展開しており、各方面から高い評価を得ています。また、現在は青年海外協力隊のメンバーに理学療法士の方が二人いて、ザンジバルのストーンタウンとドドマの病院で活躍しています。しかし、たとえばザンジバルの隊員が一人で奮闘しているリハビリ病棟の目の前に、中国が建設し多くの医師を送り込んでいる婦人科病棟があって、彼我の物量の違いには圧倒されます。
中国は、現在までに1500名以上の留学生を中国の国費で受け入れ、公務員などの研修については約2000名を受け入れています。
残念ながら、日本の国費留学生のシステムではこれほどの数の学生を招請できません。大学院レベルの研究留学生についてはタンザニアに3人の枠をもらっているので、少なくとも毎年3人ずつ新しい留学生を日本に派遣できますが、この程度の数では2012年度までの累計も120人に留まっています。また、学部学生においては世界全体の応募者のなかからの競争になり、残念ながらタンザニアの学生からは合格者が出ていません。
他方、JICA招聘の研修生は、1962年に始めてから累積で9000名を超え、ここでは中国を一歩引き離しています。
このような政府の援助という分野でも、確かに中国の姿は大変目立つのですが、それにもまして、当地における様々なプロジェクトの契約において、中国企業が高い競争力を有し、多くの契約を勝ち取っていることで中国のプレゼンスは否が応でも高まっているのです。
中国企業のアフリカ進出を促進するため、中国政府は様々な支援スキームや措置を実施しています。最も代表的なものは、2006年に設置された総額50億ドルの「中国・アフリカ開発基金」です。これに加え、中国の金融機関が中・小規模ビジネスを対象に優遇的なソフトローンを提供する10億ドル規模の特別融資基金も設立されており、タンザニアへの企業進出にも活用されています。
また、中国は、エチオピア、ナイジェリア、ザンビア、モーリシャス、エジプトに続き、タンザニアで中国企業向けの経済特区の建設も進めています。経済特区の計画はキクウェテ大統領の積極的な支持を得たと伝えられてり、タンザニア側は、中国側の要請を受けてダルエスサラーム港に隣接するクラシニ地区に建設用地を特定し、現在タンザニア輸出加工区庁(EPZA)の手で用地収用手続き中です。中国側からは、タンザニア及びその後背地を対象に中国製品、保守部品の展示場や倉庫を建設するとともに、製造企業を誘致するとの意図が表明されています。
続いて、最近中国企業が落札した主だった案件を見てみましょう。
タンザニアの南西部、ンジョンベ州のニャサ湖(マラウィ湖)に近いムチュチュマ(Mchuchuma)の石炭とリガンガ(Liganga)の鉄鉱石の開発、並びに300MWの石炭炊き発電所と年産50万トンの製鉄所の建設について、2011年の9月に、中国の四川宏達股份有限公司が落札した、というニュースが入りました。事業体は、中国・アフリカ開発基金、中国輸銀から初期コストとして6億ドルの投融資を受けており、最終的には30億ドルの投資規模に達すると言われています。
この鉄鉱山と炭鉱については、90年代から日本に対して開発の要請があり、タンザニアに来ていた日本の専門家からも強い推薦意見が出ていたのですが、港から遠く交通の便が悪い(ダルエスサラーム港からは800キロほどあり、タザラ鉄道からは最短でも160キロほど離れている。)にもかかわらず、品質的にもう一つ(鉄の含有量50%ほど)という理由で、日本企業は寄り付かなかったと聞きます。
自前の鉄鉱山、炭鉱の開発はタンザニアの悲願であり、この契約の成立は野党も含め、タンザニアから大変歓迎されました。
ダルエスサラームの町の、港に通じる入江を挟んで反対側にキガンボーニ地区が広がっています。魚市場の前の水路を通ってタンカーやコンテナ船が港に入っていくのを横切って、フェリーが町の中心とキガンボーニとを結んでいます。この状態は大変不便なので、すでに70年代から横断橋の建設が望まれており、日本にも再三にわたり協力要請があったのですが、大きなプロジェクトになるため日本側は協力に躊躇していました。
そのキガンボーニ橋について、2012年1月9日に、中国の企業グループが2146億シリング(約10億円)余りの金額で建設を請け負うことが決まった、という発表がありました。費用は、60%がタンザニアの国家社会保障基金(NSSF)が出し、40%を国が負担することになっています。ここに示す写真は、その時に出た完成予想図ですが、その後この「格好の良い」ループ部分は実際にはない、という説明がなされています。
タンザニアでは、オフショアの天然ガス田の探査が進んでいますが、南部のムトワラには約4.4TCFの オンショアのムナジベイ・ガス田 (ウェッブサイト)があり、ここのガスをダルエスサラームまで持って来て、主として発電に利用し、恒常的な電力不足を打開したい、という計画がかねてからあり、パイプラインの建設をだれが引き受けることになるかが注目されていました。
そこに、2012年の夏になって、石油技術開発公司(CPTDC)と中国石油天然ガス股份有限公司(CNPC)が532キロに上るパイプラインの建設を受注し、7月にはタンザニア側と中国輸銀との間で12億ドルに上る借款契約も締結されました。パイプラインは2013年の年末までに竣工することが期待されており、竣工すれば、ダルエスサラームのキネレジに建設されるノルウェー、日本そして中国のガスタービン火力発電所が稼働し、電力不足が解消されるということになります。この、電力不足という喫緊の問題の解消に必要なパイプライン建設というタンザニアの国家を挙げての一大事業も中国企業が一役買うことになりました。
タンザニアには、ダルエスサラームを始めとして北のタンガ、南のムトワラに国際港があります。現在、増大する国内需要そして内陸国3の需要に応じ、ダルエスサラーム港を始めとして、3つの港の能力を拡張することが求められているのですが、いずれも天然の入江を利用した港であって、現在の国際航路に就航しているパナマックスやそれ以上の大型船が接岸できるようにはなりません。
そこで、2009年に世銀が長期計画としてバガモヨに新港開発を提案するポートマスタープランを策定し、2010年にタンザニア港湾局(TPA)も自己資金による港湾部分のF/Sを実施(独のハンブルク港湾局が落札)しました。我が国も2011年からタンザニア全体の全国物流マスタープラン策定プロジェクトを開始しダルエスサラーム港が2018年にも取扱貨物量がキャパシティを上回ることや, 産業貿易省の主導でタンザニア最大のムベガニ経済特区が設けられ、具体的な開発を待つばかりになっていることから、開発計画の動向を注視していますます。
このプロジェクトを誰が引き受けることになるか、タンザニアを巡るビジネスの一大焦点であり、中東の某国が自己資本で港の開発を引き受けるという話も出たのですが、遠浅の地形で浚渫の負担が大変にかかるということで、辞退してしまったというエピソードもありました。
これも、天然ガスのパイプライン契約締結と同じ2012年の夏になって、中国の企業がタンザニア政府と覚書を結び、バガモヨの新港建設と関連するムベガニ経済特区の開発、鉄道などの交通網の建設などを引き受けるという基本合意が結ばれました。11月にはタンザニア側と中国側とで共同作業部会が設けられ、内容の詰めが始まったという報道もあります。日本側は、新港建設にメガ・フロートの利用などを考えているということもあるのですが、出遅れてしまった感は否めません。
また、万を数える中国の人たちが、一旗揚げるためにタンザニアに来るだけでなく、中国の中の賃金上昇、原材料高騰を受けて、生産拠点をタンザニアに求めて来た企業がたくさんあることにも注目すべきだと思います。日本では依然として日本国内から中国へ生産拠点を移す動きがありますが、中国自体には自国内の特に沿海地帯の製造業をアフリカなどに移す動きが出ているということです。
タンザニアにおける最近の中国ビジネスについて概観を述べてみましたが、何らかのお役にたてれば幸いです。なお、本稿は若干急いで取りまとめたために不十分なところがあるので、今後新しい情報が入り次第、改定していくことにしております。
本稿では最近注目された新規受注の例をご紹介しましたが、いずれも、タンザニア側から見れば、実現したくて仕方がなかった案件を、やっと中国が拾ってくれた、ということでしょう。この例の中で資源獲得に直接裨益すると言えば鉄鉱山・炭鉱の案件がありますが、巨大案件としては基幹インフラ建設が数多く見受けられます。また、中国企業の投資全体としては労働集約的な軽工業中心に製造業への投資が多く、そこで多くの雇用を生み技術移転も行われていて、タンザニア側から歓迎されていることを見過ごしてはなりません。
また、確かに中国から輸入される安価な消費物資の中には安かろう悪かろうというものが多いのは事実ですが、他方、中国製品の品質も徐々に向上しつつあり、同じ中国の産品の中でも良いものが生き残り劣悪なものは消えていくということになると思われます。二輪車の市場についてそういう話を具体的に耳にしたことがあります。