10月2日に大使としてタンザニアに着任した岡田眞樹です。大使としてはデンマークに次いで二か国目の勤めになります。大使というのは、着任してすぐに大使としての仕事を始めるわけにはいきません。天皇陛下からいただいた「信任状」を任国の元首、タンザニアの場合にはキクウェテ大統領に受け取っていただいて、初めて日本からの大使として認めてもらい、公の活動をすることが許されます。私の場合は、この信任状の提出が10月24日の月曜になりました。
提出は、どこの国でも一定の儀式を伴います。タンザニアの場合では、外務省まで出向いてから先方の手配した大型のリムジンに乗換え、モーターケードに先導されて大統領官邸まで行き、そこで軍楽隊の日本、タンザニア両国歌の吹奏の後、ゲストブックに記帳し、大統領への信任状提出に向かいます。ここまでは、多少格式ばったところがありますが、提出を終わると、大統領としばしの懇談の時間があり、陛下から大統領へのお言葉をお伝えし、大統領と二国関係をとりまく様々な案件につき意見交換をします。
こういった儀式があって初めて、日本大使として閣僚に会ったり、公式の席でスピーチをすることが認められます。私については、早速翌日の10月25日にそういう機会が待っていました。言い換えれば、大統領が信任状の早い提出を認めてくれたために、重要な機会に間に合ったと言えます。
それは、パナソニックがタンザニア西部のムボラという無電化村に、前日の24日ライフ・イノベーション・コンテナー(LIC)を据え付けたことについての記者発表でした。LICとは、20フィート・コンテナにソーラーパネル、蓄電池、パソコンなどを組み込んだもので、このコンテナを持ち込んで据え付けただけで、照明だけでなく、テレビ聴取、インターネット利用、携帯電話の充電、冷蔵庫での食料や医薬品の保管などを可能にし、電気のない村に様々な文明の恩恵を及ぼそうというもので、実は、この春にも据え付け利用開始を考えていたところ東日本大震災が起きたため、被災地での利用を優先し、タンザニアのためには半年ほど遅れて寄贈が実現したものです。
今世紀に入って、こういった活動を通じて企業が社会的な責任を果たすこと(CSRと呼ばれます)は、とみに重要性を増しています。大使館は、日本の企業がそういったCSR活動を外国で行う時に、様々な形で協力をしています。今回は、パナソニックがダルエスサラームで行った記者会見に大使公邸を無償で提供し、記者会見のアレンジもお手伝いしました。日本政府もパナソニックの活動を全面的にバックアップしているということを示すため、大使館を代表して私が記者会見に参加し、スピーチを行いました。
タンザニア政府からは、大臣が病気療養中だったためラザロ・ニャランドゥー産業貿易副大臣が参加し、タンザニア政府としてパナソニックのCSR活動を大変評価するという演説をしていただきました。ところで、隣り合って座ったニャランドゥー副大臣と話しているうちに、副大臣はもう40年以上もダルエスサラームで乾電池の生産を行ってきたパナソニック・エナジーの存在を知らず、訪問したことがないということが分かったので、一度見てみることを提案したところ、その場で、では大使と日程が合う日に是非行きましょうということになり、早速翌週11月3日にパナソニックの工場を訪問する約束ができました。
外国で企業活動を行う時には、その国の政府の理解と支援が不可欠であることは言うまでもありません。パナソニック・タンザニアは、親会社は日本であり、経営陣は日本人ですが、タンザニアの人たちに職場を与え、技術を伝え、良質な製品の生産や輸出を通じてタンザニアの民生向上、経済発展に貢献しているタンザニアの企業なのです。
工場の見学を終えた後、ニャランドゥ副大臣は、こういう優良企業が大切にされてこそ日本からの新たな投資が来る、ということを我々や取材に来た記者たちに強調しました。そのため、パナソニックの営業の障害となっている安価だが性能が悪く健康に有害な重金属などを含む密輸電池は徹底的に排除しなければならない、そしてタンザニアとしてはパナソニックが近隣を始めアフリカの各国に輸出することを力強く支援していきたい、と記者たちに強調するとともに、パナソニックには、今の一交代制の生産体制を二交代制にして生産を倍増してもらいたい、とまで期待を表明しました。ニャランドゥ副大臣はまだ若干37歳の新進気鋭の政治家です。私たちも大使館としてこういった副大臣の言葉をフォローアップし、言葉から具体的な結果がでるように努力したいと思います。
仕事を始めたばかりの時に起こった一つの事例をお話ししましたが、大使館の使命の一つは、日本企業のビジネスを支援することです。特にアフリカのような開発途上の地域では、情報も不足し、先進国では考えられないような様々の困難もあります。大使館には、政府の出先として、現地に腰を落ち着けて様々な情報を手に入れ、幅広い人脈を持つことで、企業のビジネスを支援することが、強く求められていると考えます。私たちとしては、そういった期待に応えるように頑張っていく決意です。
タンザニアを含めた東アフリカの5か国は東アフリカ共同体(EAC)をいう地域統合を推進しており、2010年7月には共同市場が発足し、将来はEUのように政治や通貨の統合も目指しています。いずれの国も天然資源に恵まれ、5か国あわせると182万平方キロの国土に1億3千3百万人の人口を有します。GDPの総額は745億ドルとまだまだ小さいですが、今世紀に入ってからは様々の経済危機にもかかわらず6~7%の経済成長率を達成しています。また、最近スーダンから独立し、大規模な油田を有している南スーダンも近い将来EACのメンバーになることが見込まれています。
こういう有望な地域にニャランドゥ副大臣のように企業活動に大変理解のある若い指導者がいることは大変心強いことです。タンザニアはキリマンジャロやセレンゲティの野生の王国で有名ですが、皆さんもビジネスに関心がおありでしたら、是非タンザニアの政治経済の中心ダルエスサラームに足を運んでみませんか?