後藤大使のタンザニア・スポーツ界探訪シリーズ(4) タンザニア野球ソフトボール連盟(TABSA)

令和2年2月19日
 今回は日本でも人気のある野球についてタンザニアの状況をご紹介しましょう。 
 2月17日,タンザニア野球ソフトボール連盟(TABSA)の本部が所在するダルエスサラーム市内のアザニア中学校の校庭内グランドに出向いて,アフメド・マカタ会長(長崎大学留学経験者)及びアルフェリオ・モリス・ンチンビ事務局長にインタビューを実施しました。ただ,その内容に入る前に,日本・日本人がタンザニアでの野球の普及にこれまでいかに貢献してきたかについてご説明します。
 

TABSA事務所建物

事務所内

TABSA事務所建物(アザニア中学校内)及び事務所内

 なんといっても元JICAタンザニア事務所次長(現南スーダン事務所長)友成晋也氏の存在なくして,タンザニアのみならずアフリカの野球は語れません。2012年1月に同氏が代表を務める「アフリカ野球友の会」がタンザニアでの野球を始め,以後,情熱をもったNIPPOの山崎武志氏といった地元進出日本企業の幹部や岩崎広貴氏らJICAボランティアの活躍と相まった積極的な活動を通じて,中学校を中心として野球が着実に全国レベルで普及していく契機となりました。2014年にはタンザニアの連盟組織がタンザニア国家スポーツ評議会の認定団体となり,2017年にはボツワナでの年次総会で世界野球ソフトボール連盟から正式認定を受けました。現在同連盟にはアフリカ大陸から野球で19カ国,ソフトボールで20カ国が参加しており,東アフリカ地域からはタンザニアの他,ケニア,ウガンダ及びブルンジが加入しています。
 さらにタンザニアでの普及を一層勢いづけるものとなったのが,2018年12月の第6回タンザニア全国大会に間に合う形で完成した前述アザニア中学校内の「タンザニア甲子園」グランドです。このプロジェクトには日本政府からの草の根無償支援のほか,大阪北ロータリークラブの「タンザニア野球オリンピックチャレンジ支援事業」としての資金提供があり,野球場としての整備が実現しました。兵庫の甲子園から本物のホームベースも提供され,アザニア中学校のグランドをタンザニア野球のメッカにしようとの熱い気持ちが込められていました。竣工引渡式の当日には,ムワキエンベ・スポーツ担当大臣のみならず,なんとマジャリワ首相が主賓として参加され,祝辞に加えて始球式でピッチャーを務めて頂き,大いに盛り上がりました。同ロータリークラブから毎年12月初旬開催されるタンザニア「全国甲子園大会」には,鴻池一季氏,吉川健之氏及び坂井朋久氏といった本件支援事業特別委員会幹部の皆さんが来訪されています。
 しかし,残念なことに目前に迫った東京オリンピックについては,タンザニア・チームがその後に参加した東アフリカ予選大会で既に敗退してしまいましたので,今回のインタビューはポスト東京五輪を睨んだ中期戦略に関するものとなりました。
 

世界野球ソフトボール連盟から受けた認定証の盾世界野球ソフトボール連盟から受けた認定証の盾

マカタ会長(中央)とンチンビ事務局長マカタ会長(中央)とンチンビ事務局長


 さて,ンチンビ事務局長によると,オリンピック本戦までの道は険しく,まずは強豪ウガンダ,ケニアといった近隣諸国がいる東アフリカ地域で優勝し,アフリカ各地域代表が戦う南アフリカでのアフリカ大陸大会で優勝。その上で中東を含む欧州大会で勝たないとオリンピックに出場できないとのこと。西アフリカにもブルキナファソといった地域野球が盛んな強豪が存在する上,オランダやイスラエルといった世界レベルのチームと渡り合う実力を要するとのことです。それには,毎度のことながら先立つ資金と優秀な指導者が必要な訳ですが,日本企業からの支援として大阪北ロータリークラブのほか,トヨタ自動車,豊田通商,トヨタ野球チームなどのトヨタグループ,読売新聞社が加わったそうで,審判などの人材面では,かつてシドニー五輪で公式アンパイアを務めたアジア野球連盟審判長の小山克仁氏らの支援を仰いでいるとのことでした。そして,今後の展開を念頭に組織を拡充する観点から,「アフリカ野球友の会」を改組拡大して東京の本部を置く「日本アフリカ野球ソフトボール財団(J-ABS。通称ジャーブス)」に衣替えするようです。
 昨年12月初旬の第7回甲子園大会には,在タンザニア米国大使館が招待され,ロサンゼルス・ドジャース友の会が野球道具などを寄贈,かつて米国メジャーリーグで活躍した黒人選手ジャッキー・ロビンソン氏のご子息,デイヴィッド・ロビンソン氏も出席しました。同氏は,学生時代を野球に打ち込んで過ごすとしても,タンザニアの子供たちの将来のためにはやはり勉学,特にITリテラシーが大切と考え,自らの資金によりアザニア中学校敷地内に30台のパソコンを備えたコンピュータ学習校舎を建設し,昨年9月に贈呈したということでした。
 ンチンビ事務局長によると,タンザニアとしては,2024年のパリ五輪大会は野球が正式種目からはずれる可能性が高いため,目下ターゲットを2028年のロサンゼルス大会に定めているとのことです。従って若手の育成については,その能力に注目している小学生のジュマ君が成長株筆頭だそうで,2028年には丁度20歳で活躍が期待できる。また,先般沖縄でのプロ野球チーム日本ハムのキャンプ見学のため訪日の機会を得た17歳のアリ君も,25歳で選手としての絶頂期でのロス大会を見越して鍛えたいとしています。因みに25歳が人生の岐路で,プロ選手となることを断念してアンパイアや野球連盟職員となるか,一般人として生きていくかの判断を迫られることになるようです。こうした若い選手にとっての実力発揮の機会は、2022年10月から11月にかけてセネガルで開催されるダカール・ユースオリンピック大会です。
 ついでながら、野球以外の類似種目として女子ソフトボールがありますが,今年6月初旬に日本の高崎市で開催される宇津木カップ大会にタンザニア女子チーム選手16名と関係職員6名が参加予定となっています。さらに野球より容易にプレーできる種目として,新たに「ベースボール5」という,柔らかいゴムボールをグローブやバットを用いず,素手でボールを扱うゲームが正式に認定され,野球を目指す子供たちの裾野を広げる効果が期待されているとのことで,実物のボールを見せてくれました。
 
 
「ベースボール5」のボール(中央)
 
 また,タンザニアの地元一般の人々への認知を広げるべくマスメディアへの対応が重要で,インタビューを実施した当日も,午前中にテレビ局ITVの取材に応じたとのことでした。昨年から接点ができた米国からもコーチを招聘したいが,一定の手数料がかかるトークンの購入が必要で,財源が厳しい状況を説明してくれましたが,今年はキューバや韓国にも支援の輪を広げるべく努力したいと抱負をいきいきと語ってくれました。多くの課題を抱えつつもタンザニア野球の大きな将来性を感じさせる面談でした。
 

(参考)ご関心のある方は以下のネット情報もご覧ください。
友成晋也、認定NPO法人アフリカ野球友の会代表理事、論座・朝日新聞
大阪北ロータリークラブ「第2次タンザニア野球オリンピックチャレンジ支援報告書」 
甲子園を目指し審判の道へ。アフリカでの普及にも尽力する小山克仁