後藤大使のタンザニア・スポーツ界探訪シリーズ(2) タンザニア五輪委員会
令和元年11月4日
今回は,2020年の東京オリンピックに向けてタンザニア側で重要な役割を担っている五輪委員会(TOC)についてご紹介しましょう。スイスのローザンヌのIOC本部の傘下にある公式な組織で,東京オリンピックへの招待状も同委員会宛てにトマス・バッハ会長から届いています。
ご存じのとおり,タンザニアは連合共和国であり,TOCの本部はアフリカ大陸側ではなくインド洋に浮かぶザンジバルの中心地ストーンタウンの陸上競技場内にオフィスを構えています。そこでまず7月11日に地元の柔道を中心としたスポーツ振興にご尽力頂いている島岡ご夫妻とともに本部事務所でラシッド会長(Gulam Abdulla Rashid)を表敬しました。部屋は会長とアシスタントの2名分のスペースのみのこじんまりとしたもので,丁度目前に迫った山形県長井市とのホストタウンに関するMOU(覚書)署名に向けた作業の追い込み中をお邪魔することになりました。机にうずたかく積まれた書類の山を前に会長ご本人が実務的な作業を進めておられましたが,東京大会を成功に導くべく全力で取り組む決意を語ってくれました。このMOUはその後,7月21日に内谷長井市長と同会長の間で無事署名され,必要な準備が整いました。
ついで10月28日,今度は大陸側ダルエスサラームにあるTOCオフィスを訪ねて,タンダウ副会長(Henry Benny Tandau)及びバイ事務局長(Filbert Bayi Sanka)にタンザニアにおけるスポーツ事情を含めて東京大会に臨む意気込みをお伺いしました。
雑居ビル3階にTOCの事務室と会議室を有し,長井市との署名式を行った会議室内での面談となりました。TOCは,オリンピック精神の普及浸透とタンザニア五輪代表選手の育成と派遣を使命としているものの,タンザニア政府からの予算補助はなく,お二人ともボランティアとして活動に従事しているとのことです。スイスのIOCからは事務所のスタッフ給与や維持管理費,競技に関するセミナーなどの開催費用のみが支弁される苦しい状況ですが,タンザニアの高いポテンシャリティを信じて,若手育成を中心になんとか競技人口の増加とレベルの向上を図りたいとしていました。
参加選手の選考については,参加することに意義があるという「オリンピック精神」ではなく,TOCとしてはむしろ国際的な檜舞台で十分戦える少数精鋭を目指す方針で,これはタンダウ副会長自身が,かつて自転車競技に選手として参加した際の苦い経験に基づいた判断だそうです。出場したレースのスタートラインで隣の選手から,「お前はサイクリング専用シューズではなく,なぜそのような普通の運動靴を履いているのか」と問われて屈辱感を強く感じさせられた。若手には,心理面でそのような惨めな経験はさせたくないとしみじみと述懐されていました。
タンザニアとしての有力競技は,男女ともに中長距離の陸上競技とボクシング。前者については,アフリカのゾーン5に所属しているため,東アフリカ諸国のみならずエチオピアやケニアをいった強豪と競わなければならないし,後者についてもタスクチームを立ち上げて選手選考を進めて,その後きつい競技日程の下,2月末のアフリカ大陸大会,6月の世界大会へと駒を進めることになる予定だそうです。
タンザニアでのスポーツ事情についてお尋ねすると,一般にタンザニア人が身近に感じるにはほど遠く,一時期教育の現場を含めてスポーツ活動が全面的に禁止されたことがあり,大きな打撃を蒙った。現在は漸く徐々に正常に戻る過程にあるが,小中学校のカリキュラムにもスポーツが設定されたものの,肝心の教師やコーチが圧倒的に不足している。試合に必要な審判も国際基準を見なす人材はごく僅かなものに止まっており,課題は大きく,さらに中学高校や大学のスポーツを振興する上で,スポーツ省と教育省に所掌がまたがるので,調整を要するという問題もあるとしていました。また,そもそも同じ英連邦加盟国とはいえ,隣国ケニアは,英国直轄の植民地として潤沢な資本投下がなされたのに対して,タンザニアは第一次大戦の敗戦でドイツ領から委任統治領に甘んじたために全てにおいて立ち後れてしまったとし,企業スポンサーの重要性を強調。先般も男子マラソン世界記録保持者であるケニアのキプチョゲ選手が,多大な支援を基にペースメーカーと併走するデモイベントで2時間を切り,五輪前にその存在を大いにアピールしたことを悔しげに話していました。
このため,面談の最後に,日本に対してはトヨタやパナソニックが既にIOCの協賛企業となっているが,是非タンザニアへ進出している日本企業からも力添えをほしい,また例年6月23日は「五輪の日」として五輪啓発活動を行うので,開催国として支援してほしいとのご要望を頂きました。
次回は,JICAが主催するレディースファースト女子陸上競技大会に鑑み,陸上協会をご紹介しましょう。
ご存じのとおり,タンザニアは連合共和国であり,TOCの本部はアフリカ大陸側ではなくインド洋に浮かぶザンジバルの中心地ストーンタウンの陸上競技場内にオフィスを構えています。そこでまず7月11日に地元の柔道を中心としたスポーツ振興にご尽力頂いている島岡ご夫妻とともに本部事務所でラシッド会長(Gulam Abdulla Rashid)を表敬しました。部屋は会長とアシスタントの2名分のスペースのみのこじんまりとしたもので,丁度目前に迫った山形県長井市とのホストタウンに関するMOU(覚書)署名に向けた作業の追い込み中をお邪魔することになりました。机にうずたかく積まれた書類の山を前に会長ご本人が実務的な作業を進めておられましたが,東京大会を成功に導くべく全力で取り組む決意を語ってくれました。このMOUはその後,7月21日に内谷長井市長と同会長の間で無事署名され,必要な準備が整いました。


ついで10月28日,今度は大陸側ダルエスサラームにあるTOCオフィスを訪ねて,タンダウ副会長(Henry Benny Tandau)及びバイ事務局長(Filbert Bayi Sanka)にタンザニアにおけるスポーツ事情を含めて東京大会に臨む意気込みをお伺いしました。
雑居ビル3階にTOCの事務室と会議室を有し,長井市との署名式を行った会議室内での面談となりました。TOCは,オリンピック精神の普及浸透とタンザニア五輪代表選手の育成と派遣を使命としているものの,タンザニア政府からの予算補助はなく,お二人ともボランティアとして活動に従事しているとのことです。スイスのIOCからは事務所のスタッフ給与や維持管理費,競技に関するセミナーなどの開催費用のみが支弁される苦しい状況ですが,タンザニアの高いポテンシャリティを信じて,若手育成を中心になんとか競技人口の増加とレベルの向上を図りたいとしていました。


参加選手の選考については,参加することに意義があるという「オリンピック精神」ではなく,TOCとしてはむしろ国際的な檜舞台で十分戦える少数精鋭を目指す方針で,これはタンダウ副会長自身が,かつて自転車競技に選手として参加した際の苦い経験に基づいた判断だそうです。出場したレースのスタートラインで隣の選手から,「お前はサイクリング専用シューズではなく,なぜそのような普通の運動靴を履いているのか」と問われて屈辱感を強く感じさせられた。若手には,心理面でそのような惨めな経験はさせたくないとしみじみと述懐されていました。
タンザニアとしての有力競技は,男女ともに中長距離の陸上競技とボクシング。前者については,アフリカのゾーン5に所属しているため,東アフリカ諸国のみならずエチオピアやケニアをいった強豪と競わなければならないし,後者についてもタスクチームを立ち上げて選手選考を進めて,その後きつい競技日程の下,2月末のアフリカ大陸大会,6月の世界大会へと駒を進めることになる予定だそうです。


タンザニアでのスポーツ事情についてお尋ねすると,一般にタンザニア人が身近に感じるにはほど遠く,一時期教育の現場を含めてスポーツ活動が全面的に禁止されたことがあり,大きな打撃を蒙った。現在は漸く徐々に正常に戻る過程にあるが,小中学校のカリキュラムにもスポーツが設定されたものの,肝心の教師やコーチが圧倒的に不足している。試合に必要な審判も国際基準を見なす人材はごく僅かなものに止まっており,課題は大きく,さらに中学高校や大学のスポーツを振興する上で,スポーツ省と教育省に所掌がまたがるので,調整を要するという問題もあるとしていました。また,そもそも同じ英連邦加盟国とはいえ,隣国ケニアは,英国直轄の植民地として潤沢な資本投下がなされたのに対して,タンザニアは第一次大戦の敗戦でドイツ領から委任統治領に甘んじたために全てにおいて立ち後れてしまったとし,企業スポンサーの重要性を強調。先般も男子マラソン世界記録保持者であるケニアのキプチョゲ選手が,多大な支援を基にペースメーカーと併走するデモイベントで2時間を切り,五輪前にその存在を大いにアピールしたことを悔しげに話していました。
このため,面談の最後に,日本に対してはトヨタやパナソニックが既にIOCの協賛企業となっているが,是非タンザニアへ進出している日本企業からも力添えをほしい,また例年6月23日は「五輪の日」として五輪啓発活動を行うので,開催国として支援してほしいとのご要望を頂きました。
次回は,JICAが主催するレディースファースト女子陸上競技大会に鑑み,陸上協会をご紹介しましょう。