

「キリマンジャロの雪について」
2008年3月上旬、今年もキリマンジャロ・マラソン大会がキリマンジャロ山のふもとのモシ市をスタート及びゴール地点として行われました。この大会は2003年から毎年行われており、主催者によれば、年々参加者も増えてきているそうです(今年は約3000人が参加)。また一般参加も可能ですので、今年は大使館からも有志がハーフマラソンに参加しました。男子フルマラソンの優勝タイムは2時間15分37秒でした。ちなみに同日に日本で行われた琵琶湖マラソンの優勝タイムは2時間8分台でした。レベルの違いもありますが、キリマンジャロ・マラソンでは20キロ過ぎに10キロ近く上り坂が続くそうですので、この優勝タイムの差にはそうしたコース設計の影響もあるかもしれません。
キリマンジャロ山はタンザニアにある高さ5,895メートルのアフリカの最高峰です。赤道直下近く(正確には南緯3度)にありながら、山頂に雪をいただくその姿は見る人を感動させてくれます。国内や海外から、毎年2万5千人から4万人の旅行者が訪れます。標高のわりには特別な登山技術を必要としないので、ガイドに従って計画通りに登り、運がよければ誰でも山頂に立てるともいわれています。しかし決してあなどることはできず、登山中の落石や高山病のため亡くなる人もいます。また多くの人が、高山病にかかったり悪天候のため、山頂を目の前にして無念のリタイアをしたという話もよく聞きます。
ところでキリマンジャロ山といえば、ヘミングウェイの短編小説「キリマンジャロの雪」を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、その小説の題名にもなったキリマンジャロの雪が最近、地球温暖化の影響で小さくなりやがてなくなってしまうのではないかという議論が起こっています。当地での最近の報道によれば、キリマンジャロ山の最高峰であるキボ峰を覆う氷の大きさが、1889年には約32平方キロメートルあったのが、1953年には11平方キロメートルに、さらに2003年にはわずか4平方キロメートルにまで小さくなったといわれています。資料によってこの数字は異なるかもしれませんが、この数十年間にふもとから見るキリマンジャロ山の氷の量が大幅に減っていることは間違いのない事実のようです。そしてその原因は、多くの科学者によって気候変動による地球温暖化のためと指摘されているのです。米国のアル・ゴア前副大統領による「不都合な真実」の中でも、キリマンジャロ山頂の氷の減少は、地球温暖化の影響を示す例としてあげられています。そしてそこでも言及されているように、米国オハイオ州立大学のロニー・トンプソン博士によれば、「キリマンジャロの雪」は10年もしないうちにひとかけらもなく消えてしまうだろうと予測されています。

(3月に撮影された早朝のキリマンジャロと山頂の雪)
しかし、最近米国の科学雑誌で、地球温暖化はキリマンジャロ山の氷の減少とは無関係だという調査研究結果が発表されました。それによれば、山頂の氷の減少はいわゆる昇華現象によるのではないかというのです。昇華現象は固体が液状になることなく直接に気体になることで、この場合は氷点下で直接氷が気化する現象だということです。その過程は冷凍庫の中で食べ物の水分が抜け冷凍焼けする状態に似ています。中緯度地方にある氷河は、対流圏の影響で特に夏には空気が暖められ溶けることがありますが、キリマンジャロ山の頂上付近はいつも氷点下のため、氷はもっぱら太陽の放射エネルギーで昇華していくのだそうです。これは頂上付近で降る雪の量とも大きく関係しています。もちろん降る雪の量が減ればそこにある氷の量も増えません。しかしそれだけでなく、氷が吸収する太陽エネルギーの量にも影響を与えるのです。新雪の白さは太陽の光をより多くはね返しますが、それが少ないと氷はよりたくさんの太陽エネルギーを吸収してしまうからです。そして今回の発表者の一人である米国ワシントン大学のフィリップ・モート博士は、インド洋の気候パターンの変動によって降雪量が減少したために、キリマンジャロ山の氷が減少した可能性が高いとしています。1800年代後半以降、インド洋から湿った空気が以前ほど入り込まなくなり、東アフリカがより乾燥した気候になったからだというのです。キリマンジャロ山の氷の減少傾向は100年以上にわたって続いており、しかもその多くが1953年以前に生じていることも最近の地球温暖化との関係を否定する理由になっているようです。
今回の調査研究結果の発表は、タンザニアの研究者にも影響を与えました。これをきっかけに、タンザニアとしてもこの問題にもっと真剣に取り組むべきであるとの声があがっています。特にキリマンジャロの雪は、タンザニアの観光振興にも大きな役割を果たしているからです。雪を頂いたキリマンジャロはタンザニアのシンボルのひとつであり、その雪がなくなってしまうと観光にもマイナスの影響があるためです。キリマンジャロの雪をめぐる今回の論争はさらに検証が必要でしょうが、この問題に対するタンザニアの研究者による独自の調査研究が今後本格的に行われることが期待されています。